システム管理者として目指していたこと

今日の記事は長いです。
技術的な話題はありません。
部署異動にあたっての


前回の記事で書いたとおり、この11月から、システム部門を離れ「経営企画室」として仕事をしております。

経営企画室の仕事はとても静かな始まりです。というか、システム部門の仕掛かり案件が多く、引き継ぎ資料のまとめに追われる毎日です。

前回、システム部門を離れることが決定したこを書き、こんなコメントをいただきました。
前々からよく拝見させていただいていました。私も中規模病院で電子カルテやPC関係の管理をしています。
当法人においても、システム部門の扱いは同じようなものがあり、格はいつも下に見られているように思えます。
経営企画室ができるならそこにシステム部門を異動させ、病院経営の一翼を担う的な扱いをして欲しいと思います。
このコメントを拝読し、共感するとともに同じ境遇の方にエールを送りたいと思いました。
また、個人的にも、節目というか、一つの区切りとして、システム管理者として考えていたことを書き残したいと思いました。


それほど高くなかったシステム管理者としてのモチベーション

私は、プロフィールにも書いているとおり、医療機関や福祉施設の経営企画部門で仕事をしてきました。40代になり、あるご縁で、電子カルテ導入の仕事をするために今の病院に入職しました。

じつは、この病院で採用になるとき、当時の事務長からこんなことを言われていました。
「病院として目下最大の課題は電子カルテの導入を成功させることであり、それが落ち着いたら、これまでのキャリアを活かして経営の仕事に関わってほしい」と。

もちろん、まったく面識のなかった私を、経歴書と短時間の面接で急に「経営にも関わって…」とは、電子カルテ導入という過酷な仕事をさせるにあたってのリップサービスかもしれませんが、私自身も本職でないITの仕事よりも、その方が病院に貢献できると思っていました。
そんなこともあって、システム部門の仕事は、どこかに潜在的に「期限付き」という意識があったと思います。

なので、「ITを使って、この病院を発展させたい!」みたいなモチベーションはなかったんです。

医療におけるITの重要性を実感する

ところが、仕事が進むにつれて、システム部門の仕事の奥深さにハマっていきます。

前職時代、「データ分析」が仕事の一つだったので、その「データ」を蓄積する「システム」の構築・運用はたいへんな仕事であることはなんとなくわかっていました。
実際に自分が、電子カルテの導入をはじめ、いろいろなプロジェクトや改善案件、トラブルの一つひとつに対応するたびに、システム部門の担当者の能力次第で、結果が大きく変わることを感じました。

例えば、オーダリングシステムの一覧に別のテーブルの情報を1列追加するだけで、現場の効率が上がったり、ミスが減らせたりします。
あるいは、データを見やすい形に集計することで、これまでになかった経営判断がしやすくなります。

システム部門の無力さ

一方、ITの重要性を認識すればするほど、病院の中でのシステム部門の力のなさを感じることに。

医療という特殊な組織の中で、システム部門は「事務職」として扱われ、その事務職が医療の組織の中で最下層であることは言うまでもありません。
先進的な大病院は違うと思いますが、多くの中小規模の病院ではこういった風潮は根強いのではないでしょうか。

絶対こうした方がいいのに…、と提案してみても、なかなか思うような結果にならない。

よく言われるのは、「ITは利益を生まないから、病院の中では後回しになりがち」という話です。

例えばセキュリティ対策にどれくらい費用をかけられるか。提案はしてみるものの、「いいよ、そこまでしなくて」と。

一応提案したし、その上で上司が判断したのなら何かあっても自分に責任はないし…、それがサラリーマンだし…、と考えるようにしましたが、やはり悶々とする。

なぜIT投資に後回しにされるのか

なぜ、医療機関の中でITに関する議論は、盛り上がらないのか。そして、思いも寄らない結論で決着してしまうのか。
私なりに考えてみたのですが、ザックリ言うと「結果が予測しにくいから」ではないでしょうか。
理由は3つあります。
  1. 病院にとって具体的なメリットがわかりにくい
  2. 提案したプランが本当に達成できるのか確証がない
  3. 担当者の信用がない

1.病院にとって具体的なメリット(採用しないことのデメリット)がわかりにくい

保険請求に関係する医療機器などと異なり、IT投資そのものが売り上げに直結することはありません。だから、優先順位が低い、とはよく言われることです。
しかし、効率を上げること、無駄をなくすことで、結果的にコストを下げることは可能です。
簿記会計っぽく言うと、売り上げの発生と、費用(コスト)の削減は、純利益への貢献という意味で同義です。

そんなことは我々が説明しなくても、もちろん院長や事務長はわかっているはずで、ポイントは、それを具体的にイメージできるか、です。

例えば「負担が軽減できる」とかのボンヤリしたものではなく、「スピードが上がるので結果的に、時間内に対応できる患者の数が〇人増やせる」とか、「5人の配置を4人にする」などです。

2.提案したプランが本当に達成できるのか確証がない

そのシステムはどんな仕組みになっているのか、セキュリティを強化しないとどのような危険があるのか、決裁権を持っている人たちに納得のいくように説明しなければなりません。

そもそも、院長をはじめ、最も近い上司である事務長も、ITについては素人同然ということは多いと思います。そういった人たちにもわかりやすく、説明できているでしょうか。

また、ITに詳しい人の鋭いツッコミ、詳しくない人の素朴なツッコミに、的確に答えられるだけの知識を持ち合わせているのでしょうか。

そして、院長や事務長が抱く疑問は、技術的なことばかりではありません。「それはわかるけど、全部の先生がやってくれるかね?」など。

技術的な疑問についてシステム管理者が答えることは当然ですが、さらにもう一歩踏み込んで、キーマンに対するロビー活動など、さまざまな「力学」を総合的に考えて実現可能な提案をしなければいけないと思うのです。

3.担当者の信用

先に挙げた2つのポイントをひっくり返してしまうようですが、これらをクリアしようとすると、たいへんな負担になります。
ここで言う「負担」とは我々システム部門のことではありません。院長をはじめ、決済に関わる人物が全て腑に落ちるよう理解するとなれば、とてつもない時間を要するという意味です。

結局、コレなんじゃないかと思います。

病院にとってのメリットが明確でも、運用まで含めた具体的で実現可能なプランだとしても、それを聞いてもらう時間がなければ始まりません。
忙しい院長に、ITのレクチャーをする暇もありません。

結局、
「アイツが言っているんだから、細かいことはわからんけど、本当にそうなんだろう」
と、言わせなければなりません。

どうやって信用を得るか

こればっかりは、一朝一夕にはいきません。

まずは、小さな案件を一つひとつ確実にこなすことからです。
そして、経営者的な視点を忘れないこと。

例えばプリンタのリプレイス案件。
そろそろ古くなってきて、トラブルの頻度が増えてきて、買い換えが頭をよぎります。
その時、我々システム部門が「面倒だから」ではなく、トラブル対応の人件費や、業務が停止することによる損失などを正確に評価します。また、買い換えるならば、新機種の性能の評価はもとより、メーカーのモデルサイクルを考え、無駄のないベストの「買い物」をする。

ベストパフォーマンスが発揮できたと思ったら、それをわかりやすく示すテクニックも身につける必要があります。

そして、意見を求められるようになったら、さらに大きく信頼を勝ち取るチャンスです。
幅広い知識と現場経験から、鋭い切り口で考えを述べる。

そして決定的なのは、他の医療機関との比較されたときです。
このご時世、院長も事務長も、自院の中だけで仕事が完結する時代ではありません。他の医療機関の院長同士、事務長同士で「〇〇のシステム、オタクではどうなんですか」という話が出たらチャンスです。

院長や事務長が答えられなくても問題ありません。「ウチの〇〇システムって、どうなってるの」と聞かれれば、その時こそ、日頃の研鑽の成果を活かし、的確な回答をすれば良いのです。

そして大事なことですが、一度信用が得られたとしても、ミスがあっては台無しです。
勝ち取った信用を失わないように、つねに知識をアップデートし、病院にとって最善の選択を提供しなければなりません。

そして部署異動

と、こんなことを考えながら、小さい仕事でも妥協せずにがんばってやってきたつもりです。

じつは、部署異動の話が出てから、ここに書いた「システム部門について思い(というか未練というか…)」は、あまり考えないようにしてたんです。

それが、冒頭に引用したコメントを読んで、いろいろと考えることができました。
自分の思考も整理できたし、また、同じ思いを抱えている中小病院の医療機関のシステム管理者の方への応援メッセージになればと思います。


さて、前回の記事でも書いたとおり、このブログは、継続していきたいと思います。
システムの仕事とまったく縁が切れるわけでもないと思いますし、IT関連も交えながら、もう少し視野を広く持って、いろいろと記事にしていきたいと思います。

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