IT業界から医療機関のシステム部門への転職について(2/2)

先日、IT業界でご勤務されている方から、このブログのコメントに、医療機関のシステム部門、経営企画部門への転職について質問をいただきました。

前回に引き続き、この方(以下、「質問者」とします)の質問に答える形で、「IT業界から医療機関のシステム部門への転職」について思うところを書いてみます。

前回の記事では、「本当に医療機関のシステム部門に転職することが良いのか、じっくり検討してみては?」という内容でした。

今回は、いよいよ「ITスキル」について書いてみたいと思います。


ITスキルのカテゴリ

ITのスキルと言っても、いろいろですよね。

私自身は、「IT業界の人」ではないので、頭の中に、世の中のITスキルの全てが網羅されているわけではありません。そして、そのカテゴライズもあいまいです。

そんな私ですが、思いつくものをザックリと分けるとこんな感じです。

  • ネットワーク
  • プログラミング・データベース
  • WindowsやOfficeソフトなどの操作
  • ハードウェア(PC、サーバー、プリンタなどの周辺機器…)
  • システムの企画(プランニング)

以下、これらのカテゴリで、どのようなスキルが役に立つか考えてみました。

【ネットワーク】

ケーブルの配線施工や、LAN機器の設置は「工事」なので、むしろ自前でやらない方がいいです。

ネットワークを設計する上では、TCP/IPの知識があった方がいいですが、知らなければそういうベンダーさんが質問してくれるのでそれに答えていけばいいのです。ネットワークベンダーさんのツテがなければ、HISベンダーさんが紹介してくれます。

むしろ、ネットワーク系の資格があっても、自分だけで設計せず、基本的にネットワークベンダーさんに任せ、自身は要件定義に勤めた方がいいと思います。

そもそも「ネットワーク」とは今や欠かすことのないインフラであり、「試行錯誤」の余地がない分野です。

医療機関のシステム部門の一担当者が蓄積できるノウハウには限界があり、これを生業としている専門のベンダーさんの経験値とは比べものになりません。

ここは、専門的な知識を持っていたとしてもベンダーさんと協力した方がいいし、専門的な知識がなければベンダーさんにいろいろ教えてもらえば良いと思います。

【プログラミング・データベース】


プログラミングと言っても幅広いのでシチュエーションに分けて考えます。

まず、電子カルテ、各部門システムとも、そのプログラムに触れることはありません。むしろ、ベンダーがそれを許すわけがありません。
というわけでこれは論外。

次にデータ活用。
電子カルテや部門システムに蓄積されているデータを抽出して加工することは、多くの医療機関で行われていると思います。
その中で、まず取り組むのが、「CSV形式で出力しExcelで加工する」というものです。
私が言うまでもありませんが、Excelの機能は本当に強力です。必要なデータさえ取得できれば、ほとんどのことがExcelでできます。
私など、きれいなグラフを作るために、あえてExcelを選択することもあります。

より大量のデータを高速に処理したい場合などは、SQLなどのデータベースを使えると良いかもしれません。

情報共有の手段の一つとして、Web系のプログラムを使えると役立つことがあるかもしれません。
医療機関が使うグループウェアの一部には、Web系のスクリプト言語や、HTML・CSSなどできめ細かくカスタマイズできるものがあると聞きます。

私がプログラミングのスキルについて思いつくのは、こんなところです。
総じて、なんらかプログラミングができるに越したことはありませんが、それがないと「仕事にならない」ということはないと思います。

つまり、採用する側から見ると、プログラミングのスキルを持っていることが「採用する条件」にはならいと思うのです。

WindowsやOfficeソフトなどの操作

医療機関の基幹システムでMacを使用していることは考えにくいので、Windowsが使えること。
そして、いろいろな資料作成にMicrosoftのOffice製品が使えること。
質問者すでにIT業界で働いているので、まず問題ないでしょう。


ハードウェア(PC、サーバー、プリンタなどの周辺機器…)

サーバー群と、PCやプリンタなどのデスクトップ機器に分けて書きます。

サーバーは多くの場合、保守契約を組むので、アラートが出たら窓口に連絡するというのがシステム部門の仕事になります。
基本的に素人は手を出さない方がいいと思います。

微妙なのが、デスクトップ製品です。
PCやプリンタ、スキャナ、バーコードリーダー、ラベルプリンタ、医療機関には様々な製品があふれています。

器用な人だと、PCのメモリが故障すると、倉庫の中から似たような規格のメモリを探してきて交換→復旧、ということをやったりします。

こういう人がいると、その時は「ありがとう、〇〇さんがいてくれてホント助かった」ということになるのですが、ストックする部品の管理コスト(人件費・スペース)を冷静に考えると、微妙なところです。
メンテナンスのトータルコストはやり方次第なので、必ずしも自前でやりきるというのはどうかと思います。


システムの企画(プランニング)

そして特に重要な仕事だと思われるのが、各システムの導入やリプレイス、運用・保守計画の立案などの「企画業務」です。

現場の話をよく聞き、院長や事務長の方針を理解し、どのような製品やサービスを採用するのが医療機関にとって最善なのかを判断するのは、とても難しい仕事です。

この仕事は、なかなか「アウトソース」というわけにはいかないでしょう。

さて、この仕事に就くには、ITの知識だけでなく、ある程度の医療業界の知識(できれば経験)が必要になります。

質問者が、現時点で医療業界の知識(経験)がないとすると、すぐにこの仕事を担当するのは、少し難しいかもしれません。

まれに、IT化が遅れている病院で、電子カルテの導入が決まると、とりあえずSE(と呼ばれる人)を採用することがあります。
このようなケースでは、病院もIT人材のことをわかっていないので、採用された人もたいへん苦労することになります。
面接の際に、そういう気配を感じたら、覚悟して飛び込んだ方が良いかと。


質問者の「ITスキル」は十分、医療業界の知識があれば…

「ITスキル」に限って言えば、質問者がお持ちのスキル(「DBシステムから、SQL、ExcelVBAを使用し、データ分析、レポート作成をしています」)で、十分だと思います。

ただ、すでにシステム部門が確立されている医療機関で、その一員として加わるなら良いのですが、前述の通り、これからシステム部門を立ち上げるような環境であれば、医療機関の知識(経験)がないと苦労されると思います。


質問をいただいた方、いかがでしたでしょうか。
なにか新しいことに気づけるような回答でなくても申し訳ありませんが、なにか思うところがあったらまたコメント欄で質問してください。

それでは、良い転職ができるよう、がんばってください。



ITスキルよりも人間性


さて、ここからはオマケです。

「必要なスキル」という質問とは少し離れますが、私が採用側の立場だったら何を重視するかというと、それは「人間性」です。

「人間性」という言葉が広すぎるなら、「他人の意見を受け入れられる人」とでもしておきましょう。


知識やスキルの部分は、前述したように、ベンダーさんに協力してもらうことでほとんどのことが解決しますし、必要に迫られたら勉強すればいいと考えています。

ところが、その人の仕事に取り組む姿勢であったり、ものごとの考え方は、なかなか変えることができません。

まあ、性格が違うことはしかたありません。世代も、育ってきたバックグランドも違えば、考え方に違いが出るのは当然で、むしろ気の合う人だけ集めても、「多様性」という意味で、脆弱な組織になってしまうでしょう。

ただ、意見が食い違ったときに、話し合いで解決できない人、というのはやりづらいです。
その意味で、コミュニケーション能力に問題のある人、頑固な人、感情的な人は本当に困ります。

病院という組織は、多くの人で構成されますが、その中でシステム部門はわずか数名です。

例えば看護部などの大勢の部署では配置転換などできますが、システム部門ではそうはいきません。数十年にわたって、一緒に働くことになるかもしれないのです。


あと、記事中で触れた「医療業界の知識…」について触れておきます。
就職先の業界についてよく知っていた方が良いのは、特別なことではないでしょう。

少し私の話を…。

今の病院で採用になったとき、私はシステム部門のNo.2のポジションでした。

トップの「室長」は数ヶ月後に定年退職することが決まっており、つまり私は「後釜」として採用されたわけです。

室長からはとても歓迎されました。
どうも、私の採用の前に、派遣SEを採用したことがあり、それで苦い思いをしたとのことです。

当時、病院は電子カルテの導入プロジェクトを控え、システム部門は窮地に立たされていました。「後釜」を探してもなかなか応募がなく、地元のITベンダーからSEを派遣で採用したのです。

ところが、このSEが思ったほどの活躍ができず、室長は困ったそうです。
このSEは、今でも私がいろいろと相談を持ちかける人物です。

SEとしての能力は高かったのですが、医療業界の知識が全くなかったので、何をするにも用語を説明する必要があり、それに多くの時間を費やしたそうです。

そんな過去があって、複数の医療機関で働いてきた私は、入社早々多くの仕事を丸投げ(?)されることになったのです。

IT業界から医療機関に転職するということは、この話の通り、勉強しなければならないことが多く、「教えてもらう」には、前述のコミュニケーション能力や、真摯な姿勢が、つまり「人間性」が求められます。

そして、採用する側の医療機関も、IT業界の人材を雇用するとしたら、「ITスキル」よりも、「人間性」で評価すべきなのだと思います。


医療情報技師

この原稿を書いているときに、前回記事のコメント欄に以下のようなご意見をいただきました。
院内SEに転職するのなら、"医療情報技師"の検定を持っていると色々と有利です
また、医療情報技師育成部会ではSEの公募情報も公開しているので現実を知る一助にもなりそうです
たしかに、医療情報技師の検定は有効かもしれません。

この記事の中で、何度か「医療業界の知識が…」と書きました。

検定対策の勉強は、聞いたことのない言葉がたくさん出てきてたいへんかもしれませんが、この記事で何度か垣田「利用業界の知識が…」を埋めるには、有効な手段だと思います。

もし医療機関側の採用が「選考」であれば、このようなタイトルをお持ちであれば良い方向に働くと思います。
転職を実行するまでに十分な時間がとれるようであればチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

コメントくださった方、ありがとうございました。

コメント

  1. へっぽこ管理者2016年6月21日 14:46

    過去記事に横から失礼いたします。
    小さな病院で電子カルテ及びIT関係の管理をしております。
    小生は医療現場から現在のSEになりました。
    「SE」と言うには程遠く、ITスキルはいわゆる「下の下」で、
    プログラミング・データベースはサッパリわかりません。
    皆様のITスキルが羨ましい限りです。
    そんな小生ですが、この素晴らしいブログのタイトルが
    「病院のシステム管理者のブログ」だった頃からの愛読者として
    どうしてもお伝えしたくて投稿させていただきました。

    病院のパソコンの画面の先には必ず患者様が居ます。
    主な仕事の対応は職員への対応がほとんどですが、
    その先に必ず患者様が居て、患者様の人生を左右する情報を
    管理しているのだと思っていただけるとありがたいです。
    病院の職員は例えシステム担当であっても医療人なのです。

    現場上がりの目線で大変恐縮ですが、病院は特殊な環境だと
    思っています。世のIT業界から10年も20年も遅れていると言われ、
    すごく閉鎖的で縦割りのやり難い業界ですが、患者様の為に!
    という気持ちはどの医療人も同じ想いだと思います。

    ほんの少しだけでも結構ですので、
    患者様の為にというお気持ちをどこかにお持ちいただければ幸いです。

    最後になりますが過去記事に対するご無礼な投稿を
    容赦いただければと存じます。
    ありがとうございました。

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    返信
    1. へっぽこ管理者様(と呼ぶのは恐縮ですが…)、貴重なご意見をいただき、本当にありがとうございます。

      このブログも、少しは皆様の目に留まっているようなので、へっぽこ管理者様のこのご意見が多くの方に読んでもらえたら…と願っています。

      ご意見やお気づきのことがあったら、遠慮なく書き込んでくさい。

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