仮想サーバーをやめた理由① 費用対効果が微妙になってきた


ここ数ヶ月、次期PACSの更新の話を引きずっていましたが、やっとベンダー選定、院内決裁とも終了しました。

どちらのベンダーさんにするかは、かなり前から方針が決まっていたのですが、様々な周辺の費用(「次期PACS導入の付帯費用いろいろ(2019/5/21)」)がかかることがわかっていたので、これを整理するのに時間がかかりました。

さて、5/21の記事にも書いたのですが、当初、PACSを始め、多くの部門システムを仮想化する予定だったのですが、これを断念しました。

今回と次回、2回に分けて、「なぜ仮想サーバーをやめたのか」を書きたいと思います。


まず、今日の記事で書く、仮想サーバーを断念した理由の一つが、「費用対効果が怪しくなってきたかた」ということです。

医療機関同士の交流や、医療向けのイベントなどで「サーバーの仮想化」という言葉を聞くようになったのは、私の感覚では3年くらい前からです。

レセコンや電子カルテと同じく、最初は大病院から採用が始まり、やっと我々中小病院でも手の出せる費用感になってきたところで、丁度、当院がシステム更新の時期を迎えたことで、「これは行くしかないだろう」ということで検討し始めました。

そこにいくつかの「誤算」が重なり、結果的に費用対効果の見通しが立たなくなりました。


Oracleのライセンス体系

誤算の一つは、データベースシステムの「Oracle」の費用です。

あまりうまく説明できないのですが、ソフトウェアのライセンスは、通常、使用する本数分支払います。ところがOracleは、サーバー全体に費用が発生します。

どういうことかというと、仮想サーバーに複数のシステムが構築されていたとして、そのうちのいくつかがOracleを使用するシステムだったとします。ライセンスが「Oracleを使用するシステム数」だけあればよさそうですが、そうではなく、仮想サーバー全体にかかってくるのです。

どうも、サーバーが「仮想化」されるようになり、これまでのソフトウェアのビジネスモデルが成立しなくなってきていることから、このようなライセンス体系になったそうです。詳しいところまで私は理解していませんが、多くのインテグレーターさん、システムベンダーさんが口をそろえてそのように言うので、間違いないのでしょう。

(ちなみに、このようなライセンスの体系になったのは、2018年のことだそうです。)

ですから、「仮想ーバー上で構成するすべてのシステムがOracleを使わない」あるいは、「仮想サーバー状で構成するすべてのシステムがOracleを使う」のどちらかでないと、少し「もったいない」感じになります。

実際に、インテグレーターさんのうちの1社は、仮想サーバーを2系統構築する案を提示されました。「Oracleを使用するシステムだけで構成」「Oracleを使用しないシステムだけで構築」それぞれで仮想サーバーを構築しようというのです。

一理あるようですが、仮想サーバーのメリットの一つである、「ハードウェアを一つにまとめられる」が若干損なわれます。

電子カルテベンダー製部門システムの躍進


意外だったのが、電子カルテベンダーさんが手掛ける部門システムが、この数年間でとても完成度が上がってきたことです。「餅は餅屋」ではないですが、特化したベンダーさんのほうが細部まで行き届いていることは確かですが、カルテベンダーさんの開発力もかなり上がってきています。

もともと、仮想サーバーは2系統、電子カルテで1系統、その他の部門システムで1系統で考えていました。
そんな中、部門システムの一部が電子カルテシステムのサーバーで稼働することになれば、その分、部門システムの仮想サーバーで動くシステムが少なくなります。

仮想環境には様々なメリットがある一方、ベースとなる仮想化ソフトが高額なので、規模の小さいシステムでは「元が取れない」ということになります。

もともと、カルテベンダーさんのシステムは、おそらく、それ単体で収益化しなければならない専業ベンダーさんのものとはビジネスモデルが違うのでしょう、金額が安かったのです。
しかし、以前は「通り一遍の機能を並べただけで、運用がわかっていない」と、特に臨床現場からは酷評されており、「安かろう悪かろう」の代名詞的な存在でした。
それが、ここ数年で「追い越す」までは至らなくても、専門のシステムに迫ってきたと思います。

もう一つ、見逃せない要素が「データ活用」です。
専門の部門システムでも、「Web参照」や「PDF出力」などで、データを参照することができました。
しかし、データベースにアクセスして集計するような芸当は、一般的に部門システムベンダーさんは許可してもらえません。

こうして、本格的に電子カルテベンダーさんの部門システムへの乗り換えを検討する部署が出てきたことも、費用対効果の計算が合わなくなってきた用意の一つです。


経営者に説明しにくい


先にも書きましたが、仮想サーバーは、VMwareや、Hiper-Vなど、その基盤となる仮想化ソフトがかなり高額で、さらにその管理コストも必要になります。

物理構成に比べて、サーバーの本数や、設置する環境のコストを削減できるのがメリットですが、現実的に同じシステムを物理構成と仮想構成で比較した場合、当院の規模では、仮想構成の費用が物理構成を下回ることは正直なところ微妙です。

では、別のメリットして何を考えていたかというと、システムの「更新」を先送りすることにあります。
システム更新の費用は莫大です。
実際に、今回のPACS更新でも、PACS本体の費用よりも、データ移行費や、各システム・モダリティとの接続費など、周辺の費用の方が高額になっています。

ハードウェアのライフサイクルである「5年」で毎度更新するところを、仮想化により、ハードウェアの寿命に関係なく、1年でも2年でも同じシステムを長く使用することができたら、その費用削減効果は小さくないのです。

①短期的なメリット:サーバー数の削減によるイニシャルコスト
②長期的なメリット:ハードウェアの更新サイクルより、システムを長く使用する

ところが、前述のように、Oracleのライセンス体系や、システムが少なくなったことにより、物理構成に対して、仮想構成の方が高くつくことになりました。

つまり、①のメリットがなくなるどころか、「デメリット」になってきます。

こうなると、経営者を説得するのはたいへん難しくなります。

今、どれだけ手間かけて詳細な試算をしても、それが、5年後、10年後には状況が変わっているかもしれません。そのくらいIT分野の成長は目覚ましいものがあります。
数年前に「使い物にならない」とされていたカルテベンダーさんの部門システムが、今は最有力候補になっているという事例は、それを物語っています。

あるいは、今回導入したシステムの評判が悪く、ハードウェアの更新時期にかかわらず、5年で更新するとなれば、やはり②のメリットは見いだせなくなる可能性があります。

物理構成よりも余分にお金を払うメリットを、確信を持って経営者に説明できない以上、仮想化の提案をすることは、かなり難しくなりました。



次の記事では、仮想サーバーを断念した決定的な理由、「時間がなかった」について書きたいと思います。


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