電子カルテの導入期間を振り返って-これから導入される方へ

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コンスタントにアクセスを集めている記事の一つに「電子カルテの導入期間はわずか5ヶ月」という記事があります。
このブログを始めたばかりの頃に、カルテメーカーさんから「5ヶ月で導入します」というプレゼンテーションを受け、その短さに驚いた…、というだけの記事なのです。この記事がアクセスを集めているということは、たぶん導入期間に関心のある方の検索に引っかかるのでしょう。

そんな方の参考になればと考え、この5ヶ月間を振り返っておきたいと思います。

【導入期間開始前】
私が当院に着任したのは、5ヶ月の導入期間が始まる2ヶ月半前でした。「IT化」という意味では、同規模の病院に比べむしろ遅れている感がありました。それが一気に「電子カルテ導入」というのは、今思えば院長の「英断」なのですが、当時は本当に不安でした。
その私よりも、不安だったのが現場の職員です。私の印象では、特に看護師の不安はたいへんなものでした。
導入プロジェクトが正式に始まる前後はその不安から、「とにかく説明会を開いてくれ」と言われたものです。私自身もなるべく対応するようにしましたが、電子カルテの一般的な話はできても、機能や操作方法など具体的な話になると、メーカーさんに頼らざるを得ません。頼みのメーカーさんはというと、「(プロジェクトが)始まれば、おいおい説明しますから」という対応ばかりで、現場との板挟みになりました。メーカーさんの気持ちもよくわかります。たぶん、現実に触れてもいないものをいくら丁寧に説明しても、理解度が上がらず、結果、非効率なのでしょう。
当時の記事にも同じ事を書いたのですが、「初産」で何もかもが手探りの我々と、「この子で3人め!」くらい(?)のメーカーさんのギャップに悩んだ時期です。

【導入期間開始直後~4ヶ月前】
この期間のことで思い出すのは、部門システムの選定についてです。
電子カルテ本体もさることながら、当院では多くの部門システムがこの機会にリプレースになりました。部門システムを選定する現場にしてみれば、仕事の仕方に直結するので、簡単には決められないのですが、カルテメーカーさんは、「早く決めてくれないと接続の時間がなくなりますよ…」と。
また、購入案件の審議も含め、あらゆる問題をどのように決めたら良いのか、という壁にぶちあったのもこの頃です。古参の職員によると、そもそもこの規模のスケジュールは、病院がかつて経験したことのない規模、とのこと。あらゆる部門システムが加わり「電子カルテ」というよりも、「HIS(病院情報システム」といってもいいくらいに膨れ上がり、既存の意思決定プロセスでは規模的にも、時間的にも困難で、「決め方を決める」ことが必要になりました。
電子カルテの運用検討については、この頃はまだ実感が無いというか、焦る感覚もなく…。このころからフル回転しとけば、後でこんなに苦労しなくてもいいと思うのですが、「人間だもの…」といったところでしょうか。

 【3ヶ月前】
この時期、初めて他の病院に見学に行き、とてもいい経験になりました。うかがった病院さんが良かったのかもしれませんが、とても有意義な見学になり、もっと早くに行けばよかったと思いました。
プロジェクトは、この時期から本格的になってきたように記憶しています。カルテメーカーさんによると、どこの病院でもそうらしいのですが、腰を上げるのが一番遅いのは医師なのだそうです。当院でも、このころから先生方が耳を傾けてくれるようになってきたように思います。
「翌月には操作説明が始まる」→「操作説明するからには運用が決まっていないと」ということで、いろいろな検討事項に「期限」がつき始め、一気に忙しくなりました。
私個人としては、それまでは、大小様々な打ち合わせにもできる限り参加していたのですが、端末やインフラの手配が佳境に入り、各ワーキンググループの状況が把握できなくなってきました。
部門システムの納品が始まり、機器の設置や接続試験などが、ハードウェア関係が一気に忙しくりました。

【2ヶ月前】
いよいよ「操作説明」が始まりました。
医師はもちろん、看護師、医事課…、あらゆる部署の操作説明が始まりました。さて、操作説明をすると、いろいろな問題が浮かび上がってきます。先生が積極的に参加し始めたのもこの頃です。
個人的には、この頃は、打ち合わせや説明会のスケジュール調整と会場設営がかなりの負担になりました。当院では会議室が説明会の会場となっていたのですが、通常の用途もあたりまえに飛び込んでくるので、その都度設営作業に追われました。机を並べては、電源とLANの配線をし、説明会が終わるとそれを片づけの繰り返しでした。この時は、デスクトップの「一体型」が大活躍しました。最近の一体型はスリムにできているので、普通の液晶ディスプレイを一回り大きくした感じで、取り回しがよく重宝しました。欲を言えば、無線LANがあれば有線LANをいちいち引っ張り回す必要がなくてよかったのではないかと。
この頃は、毎日のように何かの「締め切り」があり、追われるように仕事をしていました。端末の設置場所・台数が確定したのがこの頃で、注文が済んでホッとしたのもつかの間、LAN工事の手配に追われ始めました。

【1ヶ月前】
最後の1ヶ月は、端末設置ばかりしていたような気がします。こちらが設置したくとも、現場には現場の事情があるわけで、まずケジュールを調整が大きな負担になりました。また、実際に設置してみると次々に変更が出てきます。また、設置するためのテーブルやデスクの手配が遅れたり、工事の関係で設置できなかったりと、ほとんどスケジュールりに設置することができませんでした。カルテメーカーさんに聞くと、他の病院さんではもっと強硬に設置しているとのことですが、そういうわけにもいかず、大変な思いをしました。
そして、なんといっても導入プロジェクトのメインイベントといってもいい、病院をあげてのリハーサルが行われました。ある日は病棟、次の日は外来…と、各部署持ちまわりで、びっしりとスケジュールが組まれているのですが、当然、我々システム部門は全てのリハーサルに参加します。昼も夜もなく、平日も日曜もありません。で、例によってリハーサルをするためには、それなりの機材が現場に必要になります。それを設置してまた撤収して、と。
もう一つ、我々システム部門がこの頃取り組んでいたのが、非常勤医師への操作説明です。運用が決まっていなかったり、そもそも私も電子カルテの操作に成熟しているわけではないので、質問攻めに合うこともしばしば…、ふがいない思いをしました。
そんな過酷な日々を送る一方、最後1ヶ月くらいなってから、「なんとか間に合いそう」という手応えが出てきました。それまでは、「本当に5ヶ月でできるのか」と何度も不安に襲われたものです。

 【まとめ】
なんというか、まだ自分の中ではまとまっていないし、様々な思いや反省が巡っています。それでも、「これから電子カルテを導入する方に、一つだけ伝えるとしたら?」と言われたら、「プロジェクトの成否は、プロジェクトマネージャーによるところが大きい」ということです。
誤解のないように説明しておきたいのですが、「他人のせい」にしたいわけではありませんし、そもそも、わたし的には一応の「成功」だったと思っておます。述べたいのは、プロジェクトマネージャーの影響力は絶大だということです。
当初は、私自身も「メーカーさんのプロジェクトマネージャーは所詮他人であり、自分がしっかりしなければ」と思っていたのですが、いくら頑張っても「未経験」の人間ができることはたかが知れています。限られた予算と時間の中で成果を出すには、手探りでトライ&エラーをしている暇はなく、メーカーさんのプロジェクトマネージャーに頼らざるを得ません。
今回お世話になったカルテメーカーさんが他のメーカーさんと比べて質が高いのかそうでないのか、比較対象となる経験がないので、なんとも言えません。毎日朝から晩までよく頑張ってくれたと思いますが、その一方で、プロジェクトを進めていくうちに、いろいろな場面で「それは最初に言ってよ」という場面に出くわしました。
どちらの病院さんでも同じだと思いますが、電子カルテの導入を検討する際、価格と機能だけでメーカーを比較しがちです。
しかし、どのように運用したら効果的か、どのように導入したらスマートにいくのかという、「ノウハウ」と、そのノウハウを活かすプロジェクトマネージャーのスキルも、重要な商品です。
価格や機能と違って、単純なQ&Aでは評価できない要素ですが、メーカーさんとじっくり話すもよし、また、導入実績のある病院さんで話を聞くもよし、この点は労を惜しまず徹底的に取り組んだほうが良いと思います。

たった一度電子カルテ導入を経験しただけの若輩者(40代ですけど)ですが、導入担当になったシステム部門の方、委員会・ワーキンググループに駆り出された現場の方に、少しでもこのブログが役立てばと思っております。

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